ボートレースのテクニックの一つである「ダンプ」は、『先行艇との間に、相当の艇間距離(3~4艇身)があるにもかかわらず、艇首(バウ)をあまり返さず突っ込んで相手を飛ばし、自分はその反動で前に出てくる航走のこと。』です。
水上の格闘技とも言われているボートレースでは、こういった接触は日常茶飯事。
ですが、本来「速さを競う」競艇でこのような行為を行えば「嫌われ者」となってしまいそうですよね。
また、不良航法で払い戻しや原点のペナルティーを受けてしまうリスクも伴います。
そこで、何故「ダンプ」が必要なのか、過去どういった実例があるのか等を徹底調査して参りました。
競艇のダンプとは何か?
ダンプとは、自身のボートと先を走るボートとの間に、3~4艇身程の相当な距離があるにもかかわらず、艇首をあまり返さずそのまま突っ込み、相手の艇に自分の艇の胴体側面をぶつけることによって、反動で前に出て旋回しやすくすると同時に、艇をぶつけた相手のスピードを奪うテクニックのことです。
ダンプは「切り返し」と呼ばれるテクニックと併用されることも多いです。「切り返し」とは、外側を走っている艇がコーナーインする際に、内側を走っている艇の内へと急ハンドルでボートの進路を変え、ターンマークを先に回ろうとするテクニックのことです。
進路を変える際、「ダンプ」を用いて旋回する場合があります。
ターンにかかる距離を最短に留めることが可能となるが、相手の引き波などに注意を払う必要があるのです。
競艇のルールについて
上記で説明した通り、ダンプとは非常に難しい技術だと思います。
ダンプの前に、競艇のルールを、私なりに簡単に説明させて頂きます。
競艇とは基本的に、1800メートルのコースを3週回ることで、上位順位を争うものです。その中で、旋回をする部分にマークと言われる場所があります。競艇場には1マークと2マークの2つが存在します。
1周が600メートルあり、マーク間の直線は、300メートル存在します。
そこで重要なのが、【旋回(ターン)】です。1マークと2マークのコーナーを艇が回る時に、ボートレースの最大の魅力があります。
ただ単純に回るだけでは何も起きません。しかし、上位入賞を目指すレーサー達は、自分のスタートする位置から、1マークを回る事を踏まえて、最短ルートで旋回をしなければなりません。1号艇から6号艇までが存在する中で、一番内のインコースの1号艇、一番外のアウトコースの6号艇が存在します。
ここで皆様が思っている通り、旋回をするならインコースが有利でしょ?っという疑問が出ると思います。もちろん、その通りです。
競艇は圧倒的に、インコースの1号艇、2号艇が有利です。
小学生などが行う、徒競走で考えると簡単です。コースの外側を走る子と、内側を走る子が入れば、内側のほうが、短い距離で走る事が出来ます。
しかし、内側に場合は、コーナーの曲がりが急になるリスクも存在します。
競艇の場合、インコースの選手はマークをどれだけ鋭く、A角に曲がれるかが勝負です。
ダンプが起きるポイント
上記で説明した通り、旋回が重要なボートレースですが、ダンプはその旋回のタイミングで起こります。
競艇は陸上ではなく、水上で行うボートレースです。艇が高速で走れば波が起きます。
その旋回のタイミングでは、選手達はハンドルを切り、艇を傾けながら旋回します。
先頭で走っている艇が旋回のタイミングで、艇が水しぶきを上げながら横を向いている時にダンプが発生しやすくなります。
後方からくる艇が、前にいる旋回中の船に目掛けて、猪突猛進で突っ込み、艇をぶつけて旋回する事です。この技術には驚きです。
その事から、後方の艇は早いスピードでマークを旋回出来る上、先頭の艇を外に弾き飛ばして、結果的に、その艇より前に行くことが出来ます。
これは決して、1位と2位の選手だけが行うものではありません。2着、3着争いでも起こります。熱い気持ちの選手達が、必死で上位入賞する為に起こる現象だと思います。
不良航法と妨害失格について
ここまでダンプについて説明してきましたが、現在では、ダンプという行為はとても危険で、失格になる可能性が非常に高くなってきております。
相手を落水、転覆させれば妨害失格になります。
また、後続艇を巻き込んで転覆、落水させた場合にも、妨害失格になってしまいます。
結局、自分で転覆、落水しようがしまいが相手を転覆、落水させたら妨害失格というわけです。
また、不良航法についてですが、これは一つの大きな理由がありまして、モーターボート競争競技規定第21条が関係しています。
【第21条 モーターボートは、スタート後ゴールインするまでの間、他のモーターボートを追抜く場合は、そのモーターボートを左方向に見て追抜かなければならない。
ただし、他のモーターボートの妨害により、左方向に見て追抜くことができなかった場合、その他やむを得ない場合、又は安全な間隔がある場合は、この限りでない。】
これを読むと相手を左側に見て抜かなくてはならない、要は外側から抜かなければならないとありますね?
ですが、レースを見ていると内側からばんば抜いてます。
しかし、最後の行、安全な間隔がある場合はこの限りではない、という部分が肝になるわけです。安全な間隔がある場合に内側から抜いているんです。
しかし、不良航法を獲られる選手の中に、安全な間隔がないのに突っ込む選手が不良航法を獲られているわけです。その時に一番わかりやすいのが、ダンプです。
先ほどの例で、相手を吹っ飛ばさない程度のあたりの弱いダンプでも不良航法を獲られる場合は、この安全な間隔がないときに突っ込んでしまったわけです。
具体的に言うと、前の艇がターンマークを外さずに廻ろうとしているところに突っ込むと、安全な間隔がないのに追い抜きをかけたということで不良航法になるわけです。
最近、この第21条にひっかかって不良航法を獲られる選手を非常に多く見ます。
現在の競艇界では、相手を弾き飛ばす選手は非常に少なくなってきています。その背景には、旋回の技術の進化、エンジンの性能向上により高速化が進み、滑らかなレースが普通になっています。
ダンプに関しては、現在ラフプレーと考え、反則によって減点や失格になる事が多いです。
ダンプで有名な選手
競艇界には、ダンプを持ち味として、違反になるか、ならないかの紙一重の技術を持つ選手がいます。競艇ファンの中でも、ダンプというイメージで最初に出てくる選手で代表するのが、原田 幸哉(はらだ ゆきや)選手だと思います。
ファンからは通称【原田ンプ】というあだ名までつけられている原田選手です。
三重県の生まれで、愛知県で育った競艇選手です。
登録期は76期、登録番号3779、ランクはA2級、身長172cm、体重53kg、血液型はB型。弟子には柳沢一、横家翔一、後藤陽介らがいます。
主なタイトルとして以下の成績を残しています。
SGレース
第49回全日本選手権競走(2002年・平和島競艇場)
第14回グランドチャンピオン決定戦競走(2004年・浜名湖競艇場)
第12回競艇王チャレンジカップ(2009年・常滑競艇場)
プレミアムG1(G1レース)
新鋭王座決定戦競走(2000年・びわこ競艇場)
競艇キングカップ(2002年・児島競艇場)
近松賞(2005年・2011年・尼崎競艇場)2度優勝。
宮島チャンピオンカップ(2004年・2006年・宮島競艇場)2度優勝。
モーターボート大賞(2002年・大村競艇場、2007年・芦屋競艇場)2度優勝。
ダイヤモンドカップ(2007年・常滑競艇場、2017年・大村競艇場)2度優勝。
マーメイドグランプリ(2012年・常滑競艇場)
海の王者決定戦(2015年・大村競艇場)
競帝王決定戦(2017年・下関競艇場)
原田選手は、レコードタイムを叩き出すなどターンスピード、操艇技術に関してはかなりレベルの高いクラスでSGクラスでも上位に入るレベルだと思います。
どこのコースであっても1着、連に絡むことが出来る選手のひとりだと考えられます。
ただし、レース展開の中で下位に沈めさせられるという場面も数多く出てきます。人気の面でも絶大なとは言えないので、原田幸哉選手が本命的な舟券の買い方よりも万舟券狙いで原田幸哉選手の1着買いなんかすると以外とはまったりします。特に原田幸哉選手が5、6コースで人気が無い時は一発狙い目の選手です。
原田選手のダンプにまつわるエピソード
「原田といえばダンプ」「原田ンプ」というフレーズがかなり浸透しています。
狙ってなのか必死に走って結果的にそうなっているのか真相は解りませんが、結果的に原田ンプという言葉が定着しています。
その最大の要因になったのが、2007年ボートレース住之江(住之江競艇場)で行われた第34回笹川賞競走(現:ボートレースオールスター)の優勝戦です。
1周1マークを抜けて、先頭争いを瓜生正義選手と松井繁選手が競り合って、1周2マークに差し掛かった時に3番手追走の原田幸哉選手が松井繁選手にダンプして結果的に原田幸哉選手と、同期で仲の良い瓜生正義選手がSG初優勝します。
原田幸哉選手は2着、松井繁選手は5着に沈んでしまいました。地元の松井繁選手にダンプした事、ダンプが無ければ1周2マークで松井繁選手がトップに躍り出たであろう場面など色んな要素があって原田=ダンプというのが定着したレースでした。
このレースでは、絶妙なダンプで違反にはなりませんでした。
しかし、2008年の笹川賞競走準優勝戦の3周目2マークに於いて、2番手を走っていた田村隆信にダンプを行い4番手から一気に逆転したものの、不良航法を取られ賞典除外となり、優勝戦出場を逃しています。
まとめ
水上における格闘技とも言われる競艇ですが、現在では紳士的に滑らかなレース展開が求められています。
ダンプは、競艇の中でも一種の技のようなものですが、あくまで故意に行うものではないでしょう。SGなどの重賞にて、激しい上位争いの中、マークを最短距離で旋回する時に、デットヒートする事で、起きてしまう現象だと、解釈するほうが良いと思います。
ファン目線から、激しいダンプにより、違反行為で失格もしくは減点をされてしまう選手は、あまり見たいものではないです。
今後の競艇には、安全で華麗なターンをする選手が増え、危険なプレーが少なく、みんなが楽しんで舟券を買えるようなレースが繰り広げられるように、見守っていきたいと思います。